札幌Hitaruで体験したパット・メセニーのジャズソロライブは、無知からの出会いが期待をはるかに上回る素晴らしいものでした。グラミー賞20回受賞の伝説的ギタリストが紡ぐ最新アルバム『Dream Box』は、彼の30年以上のキャリアで初めてのソロ作品として注目を集めています。アルバム通りの美しい旋律、異なるギターの使い分け、独自の演奏スタイルに魅了され、一曲ごとに異なるギターで繰り広げる複雑で感動的な演奏に圧倒された夜。ライブは安定感を超え、彼の一人での多彩な表現力に心が奪われる瞬間で満ち溢れていました。
ジャズ素人が、”生ける伝説”のライブへ
札幌Hitaruでパット・メセニーのソロライブを聴いてきた。思い返せば、大学時代にちょっと背伸びしてジャズを聴きかじった程度。iPhoneに数曲入っているくらいで、パット・メセニーという名前も「すごいギタリストらしい」という朧げな認識しかありませんでした。
そんな私がなぜHitaruにいたのか。それはもう、駅で見かけた広告の引力としか言いようがありません。「グラミー賞20回受賞」「初のソロアルバムツアー」。その響きに何かを感じ、気づけばチケットを購入していました。ほぼ無知の状態で行くことに少し恥ずかしさも感じつつ、でもどこかで「本物」に触れたいという気持ちがあったのかもしれません。
パットメセニーはグラミー賞を20回も受賞した伝説のギタリスト。ジャズファンならいざ知らず、日本では広く一般にこそ知れ渡った存在ではないかも知れないが、「最優秀ジャズインストゥルメンタルアルバム」をメインに10種類の異なる賞を獲得し、第一線で活躍する最高峰の存在である。
静寂と心地よさ、そして衝撃
開演前、Apple Musicで予習がてら一度だけ聴いた最新アルバム『Dream Box』。今回の来日のキッカケとなったアルバムだ。これがパット・メセニーにとって、30年以上のキャリアで初のソロアルバムだというから驚きです。パット・メセニー・グループ発足以来、過去50作以上のアルバムから厳選されたソロ曲が収録されているとのこと。
アナウンスの後、ステージに現れたパット・メセニー。カタコトの日本語挨拶に和んだのも束の間、演奏が始まると会場の空気が一変しました。
最初の数曲は、アルバムで聴いた通りの、まさに夢の中を漂うような心地よい旋律。正直、あまりに気持ちよすぎて、意識がどこか遠くへトリップしてしまいそうになるほど。一音一音が繊細で美しく、最高の子守唄…いや、最高の耳触り、と言うべきでしょうか。(違いが分からない私には、贅沢すぎる子守唄に聴こえてしまったのは内緒です。)
このままの曲調が続くと気持ち良すぎて気を失いそうだと思っていたら、3曲目、目が覚めるようにセンセーショナルな重低音が響き始める。急に前のめりになる。セロトニンは引っ込み、ドーパミンが溢れ出す。高揚する。
そこからはまさに文字通りの独壇場。
圧巻の”独壇場” – ギター1本で魅せる無限の世界
ステージ上に敷かれたヴィンテージラグには、何本ものギターが並べられている。曲ごとに次々とギターを持ち替え、一本で完結するしっとり大人しい曲もあれば、いくつも弾き分けて、目を閉じていたら複数人で演奏しているかのような錯覚に陥る複雑な曲もあったり。これぞ、生演奏の醍醐味。
ギターでベース音を重ねてループさせ、その上でメロディを奏でる、まるでギター版のヒューマンビートボックス。さらには、ハープのような美しい音色を奏でるピカソギターや、ギタリストのイメージを覆すような大掛かりな音楽装置まで登場し、繰り出される美音のオンパレードに鳥肌が止まりませんでした。

「ジャンルを超越した音楽」という彼の評価を、まさに目の当たりにした瞬間だった。アコースティックを基軸にしながらも、常に新しい表現に挑戦し続ける。その姿は、まるで熟練の職人でありながら、同時に好奇心旺盛な少年のようでもありました。
魅せる、聴かせる、驚かせる。ギターで挑戦し続けるマルチな天才。
正直、「違いがわからない耳」であることは自覚しているの私。ワインを「飲みやすい」で片付けてしまうのと同じように、音楽の機微を的確に捉えられているかは自信がありません。
それでも、この日のライブは、そんな私の耳さえもこじ開け、音楽の深淵を覗かせてくれました。アルバム『Dream Box』で感じた安定感や心地よさも素晴らしいものでしたが、ライブは全くの別物。そこには、生演奏ならではの緊張感、即興性、そしてアーティストの息遣いがありました。
一人で何役もこなし、ギターという楽器の可能性を無限に広げていく姿は、まさに「独壇場」。彼の圧倒的な才能とエネルギーに、完全に心を奪われたのでした。
アルバムから感じる安定感とは一線を画すライブに満々足。
参考記事