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【ルイス・バラガン】メキシコの光と色を纏うモダニズム建築

【ルイス・バラガン】メキシコの光と色を纏う建築-
この記事のハイライト

本屋で見つけた一冊の本が、メキシコの巨匠建築家ルイス・バラガンとの出会いだった。表紙を飾る鮮烈なピンク色の壁に心を奪われて以来、彼の色彩、光、そしてモダニズムとメキシコの風土(ローカライズ)が融合した独特の世界観に魅了され続けている。YouTubeチャンネル「McGuffin」での予期せぬ再会を機に、世界遺産でもあるバラガン自邸や代表作の魅力を再探求。さらに、DRIES VAN NOTENやBED j.w FORDといったファッションにも通底する、その奥深い美意識の核心に迫る。

ルイス・バラガンと出会ったあの頃、そして再会。

本屋の棚を、当てもなく眺めるのが私の長年の習慣だ。その日自分の興味が向いた棚に足を運び、背表紙を追いかける。それは面白そうなトピックを引っ張ってくるのに役立つうえ、セレンディピティ的なものも期待できる。思わぬ発見があったり、全く新しい世界への扉が開いたりする、ささやかな冒険の時間である。東京に住んでいた頃は、マニアックな専門書店や図書館も多く、気づけば「積読」の山が築かれていたのも、今では懐かしい思い出だ。

ある日、そうした流れで建築関係のジャンルに目を通しているとき、一つの名前が目に飛び込んできた。「ルイス・バラガン」。たしか大学を卒業して間もない、20代半ばのことだったと思う。

メキシコを代表する建築家、ルイス・バラガン(1902-88)。 ピンクや赤の鮮やかな色使い、彫塑的な壁の構成、ランドスケープ・アーキテクチュアを先取りする大胆に水を駆使した中庭と建物との関係など、その作風はモダン、かつメキシコの叙情性豊かな風土を反映したものです。1976年ニューヨーク近代美術館での展覧会を契機に世界的な脚光を浴び、1980年建築界でもっとも名誉ある賞、プリツカー賞を受賞しています。
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手に取ったバラガンの本。鮮烈なピンク色の壁面が写った表紙に惹きつけられた。強烈な色彩なのに、どこか静謐で、力強い。このとき以来、私はピンク色を好きになった。以来、彼の建築写真は私の心を捉えて離さなかった。

YouTubeでの予期せぬ再会

それから約10年。日常生活の中で「ルイス・バラガン」の名を意識することは少なくなっていた。そんな時、刺激を求めてよくチェックしているYouTubeチャンネルの一つ、「McGuffin」で、予期せぬ再会が訪れた。

McGuffin」は音楽やファッション、アートといったユースカルチャーを深掘りする、質の高い動画メディアだ。チャンネルを覗いてみると、ディープな動画がズラリと並んでおり、知らない世界を知り「通になれたような気分」にさせてくれる。ミレニアル世代は若い頃からこういった情報を当たり前のように見れて羨ましい限りだ。

私が特に好きなのは、様々なクリエイターの部屋を紹介するルームツアーシリーズ。デザインやアート系の業種の方々に焦点を絞っているため、単なるおしゃれ空間の紹介ではなく、カルチャー要素が強めで、随所にその人らしさを感じられる編集がいい感じ。巷で流行っているものや、こういう業種の人はここがツボなんだなと関心を広げるとともに、自分の知らない世界を覗き見る面白さがある。そして、自分にとって「刺さる」固有名詞やモノとの出会いを密かに期待しながら見ているのだ。たまに趣味の似通った方が出演する回があり、そんな時は妙に嬉しかったりするんですよね。

【ルームツアー】メキシコの民芸品やアメリカで購入したヴィンテージ家具、お気に入りのアウターなど 自身の“好き”と居心地を追求した3LDK UNDER THE SUNの中川優也さん萌さん夫妻の自宅を訪問

最近公開された動画に、ヘアサロン経営者とネイリストという、いかにもセンスの良い夫婦が登場する回があった。その部屋の紹介の冒頭で触れられていたのが「ルイス・バラガン」の名だった。

まるで昔の恋人の名前を不意に耳にしたような、妙にドキッとする感覚。眠っていた記憶が一気に蘇り、あのピンク色の衝撃が再び胸に込み上げてきた

ルイス・バラガンとは:メキシコの巨匠

ルイス・バラガン(1902-1988)はメキシコを代表する建築家だ。最近、感度高めの旅行系メディアでメキシコが注目されているが、そういったメディアで必ずと言っていいほど「訪れたい場所」として挙げられるのが、このルイス・バラガンの自邸「ルイス・バラガンの家と仕事場」。McGuffinに出演されたご夫婦も訪れたと語っていたその場所は、彼の生活と制作の拠点であり、今では世界中から人が訪れる文化的聖地。2004年には世界遺産にも登録されている。

メキシコにローカライズされたバラガン建築の魅力

専門的なメディアを読むと、バラガン建築の魅力は「モダニズムとローカライズの調和」と評されることが多い。これは素人の私なりに解釈するならば、合理的で世界的に共通する枠組みを目指すモダニズムと、土着的で地域に根差した環境を取り入れるローカライズというベクトルの異なる考え方がうまく同時に組み込まれているといったことを意味するのだろう。

バラガン建築は、合理的な設計思想のベースを持ちつつも、土着性を取り入れることによってメキシコ仕様にアジャストされた雰囲気があり、それが日本人の私からすればたまらなく異国情緒に溢れていて、最高に刺さるのだ。

それは、鮮やかな色彩に最も顕著に現れている。ピンク、ブルー、イエロー…メキシコの強い太陽光の下で、それらの色は濁ることなく、むしろ輝きを増して目に飛び込んでくる。ただカラフルなだけではない。光と影を巧みに操り、時に神聖ささえ感じさせる空間を作り出す。十字架をかたどった窓から差し込む光、まるで二次元の絵画のように切り取られた屋上の構成。ミニマルな形態の中に、豊かな情緒と精神性が宿っているのだ。

実際に現地を訪れたことはないが、図版や写真集を眺めるだけでも、その強烈な「メキシコらしさ」、異国情緒がひしひしと伝わってくる。それは、私たち日本人にとって新鮮でありながら、どこか根源的な「美」を感じさせる力を持っている

彼の代表作は自邸だけではない。「サンクリストバルの厩舎」では、馬と水と壁が織りなす詩的な風景が広がり、「ヒラルディ邸」では、内部空間のドラマティックな色彩構成に息をのむ。いずれの作品にも共通するのは、明快な構造、大胆な色彩、そして周囲の環境との対話だ。

こうしてバラガン建築に思い馳せていると、ファッション分野におけるDRIES VAN NOTENやBED j.w FORDのような存在が連想的に浮かんでくる。彼らのクリエイションにも、卓越したエレガントなテーラリングの上に載せられた、どこか土着的で、強い文化的な匂いや、鮮やかな色彩感覚が感じられることがある。洗練されているのに、プリミティブな力強さも併せ持つ。ジャンルは違えど、バラガン建築が持つ、合理的構成とローカルな情緒の融合、知性と官能性の両立といった要素と、どこか通底する美意識を感じるのだ。

参考書籍

メキシコを代表する建築家、ルイス・バラガン(1902-88)。 ピンクや赤の鮮やかな色使い、彫塑的な壁の構成、ランドスケープ・アーキテクチュアを先取りする大胆に水を駆使した中庭と建物との関係など、その作風はモダン、かつメキシコの叙情性豊かな風土を反映したものです。1976年ニューヨーク近代美術館での展覧会を契機に世界的な脚光を浴び、1980年建築界でもっとも名誉ある賞、プリツカー賞を受賞しています。
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